ブランド基礎情報2019年 Vo.1
皆さまこんにちは。CI言語講座の講師・和田裕史です。今回は、“企業ブランドとCI言語の関係”について考えていきたいと思います。このテーマを選んだ理由として、企業のCI構築やCIの言語化を担当させていただく中で、改めて「企業は言葉で成り立っている」と実感する機会が多くあるからです。
「企業は言葉で成り立っているって、どういうこと?」と思われるかもしれません。このコラムで「言葉と企業ブランドの関係」をひも解いていきたいと思います。
皆さまの会社にも「企業理念」「行動指針」「ブランドメッセージ」など、たくさんの言葉があるかと思います。CI(コーポレート・アイデンティティ)が言語化されたものなので、当協会では「CI言語」と呼んでいます。
まだまだあるCI言語
CI言語は上記で列挙した以外にもたくさんありますが、「CI言語って、どんな役割を果たしているの?」と思う方もいるかと思います。これらのCI言語は決して“飾り”ではありません。なぜなら、企業の考えや想いからお客様と約束する価値、経営の戦略まで、企業にとって必要不可欠なあらゆる要素が言語化されているからです。「企業はこれらのCI言語を土台として成立している」と言っても決して過言ではないでしょう。もし、CI言語がただの飾りとなってしまっているのなら、早急に改善する必要があるでしょう。
CI言語は、“CI要素”から成り立っています。そのCI要素はアンケートや企業調査、市場調査なども行いますが、おもにインタビューから拾い上げていきます。経営者やスタッフまで、インタビューで話を聞いたり、会社や仕事などについて考えていることや想いを掘り下げます。
経営者や幹部層からは、「なぜこの会社やこの事業をスタートさせたのか?」「どんな経営戦略を打ち立てているのか?」などの、想いと経営の両軸でインタビューをするケースが多くあります。また、一般のスタッフからは「この会社で働く喜びややりがい」「お客様やお取引先との関係性」「大切にしたい企業文化」など、日々の業務から感じ取れることを中心にインタビューしていきます。
これら企業の根本である想いや、事業を成長させていく上で必要不可欠な経営戦略などをインタビューで抽出していくことで、企業のすべてがCI言語に凝縮されていきます。
ここでは企業理念を例に解説してみます。企業理念は、企業が何のために存在しているのかを言語化し明示している、いわば“企業の憲法”のような存在。スタートアップしたばかりでスタッフの少ない企業であれ、スタッフのたくさんいる大企業であれ、「当社はなぜ存在しているのか?」がシッカリと定まっていなければどうなるでしょうか?
おそらく、「その場限りの誤った経営判断」「成長戦略にミスマッチな人材の採用」など、たくさんのエラーが生じるでしょう。土台がガタガタの状態なので安定した成長や組織形成が望めず、操縦不能や混乱状態に陥りかねません。
他にも「ビジョン」には、「企業ビジョン」「経営ビジョン」「年間ビジョン」など、さまざまなタイプがありますが、「目指すべき未来(こうなりたい!)」を言語化しています。企業理念を土台にしながら、ビジョンで目指すべき未来を提示してくれます。CI言語は、企業にとっての羅針盤の役割も果たします。
ヘアケア商品大手のアデランスは、過去に「ユニヘアー」と社名変更したことがありました。しかし、「消費者に新社名が十分に浸透しなかった」「事業戦略に合わない」などの理由により、1年も経たずに元のアデランスに戻したそうです。社名もCI言語の一つと考えた場合、CI言語を誤って使ってしまうと大きな混乱や損失につながりかねません。
講師松井のコラムでも、「進むグローバル化への対応」として触れましたが、企業規模の大小を問わずグローバル化への対応が求められています。また、同じ日本人同士でも「価値観の多様性」が顕著になってきています。
ひと昔前の企業では、「終身雇用制度で定年退職まで同じ企業に勤める」「スタッフはみんな家族」といった共同体意識が強く、「言わなくても分かってくれている」「価値観や考え方はみんな同じ」といった暗黙の共通認識がありました。しかし、急速なグローバル化や価値観の多様性などにより、同じ企業で働いていてもスタッフみんなが同じ考えや価値観であるとは限らなくなっています。
そこで近年、バリュー(大切にする価値)を言語化する企業が増えつつあります。これはアウターブランディングとして、お客様やお取引先、社会に自社の価値を感じてもらう側面もありますが、「会社とスタッフ」「スタッフ同士」でバリューを確認し合い分かち合うインナーブランディングとしての役割も果たしています。
バリューを「従業員がどのような価値を大事にし、いかに仕事をすべきか」と定義し、5つのヤフーバリューとして言語化。
先ほど「バリューを言語化することは、インナーブランディングの役割も果たす」とお伝えしましたが、これはバリューだけに限ったことではありません。CI言語全般に言えることですが、企業がスタッフに対する約束を明示することで、インナーブランディングの強化につながります。ここで私の所属するブランディングテクノロジーを参考に解説します。
インナーへのメッセージ | アウターへのメッセージ | |
ブランドメッセージ 「その想いを、たしかな未来へ」 |
私たちは、お客様の想いをブランドとして結晶化させ、テクノロジーを駆使することでお客様の事業をたしかな未来へと導くことに喜びを感じます。 | 当社は、お客様の想いをブランドとして結晶化させ、テクノロジーを駆使することでお客様の事業をたしかな未来へと導くパートナーです。 |
経営理念 「共存共栄の精神で世の中に新たな価値と笑顔を創出します」 |
私たちにとって、この経営理念がすべての原点です。この経営理念から逸脱したことは行わず、この経営理念を達成していくことが私たちの事業活動の目的です。 | 当社は、この経営理念を存在意義にしています。また同時に、事業活動の原理原則でもあります。経営理念を確実に達成していくことが、当社の存在意義になります。 |
どうしても“ブランド”“CI言語”などは、「アウターブランディングのためのもの」と考えがちですが、決してそんなことはありません。CI言語は、「企業とスタッフ」「スタッフ同士」の間の架け橋としても使われます。同じCI言語でもインナー・アウターで意味合いが少しずつ変化し、インナーの場合は主語が「私たち(スタッフ)」であるのに対して、アウターでは主語が「当社」に変化します。
「お客様の想いをブランド化して、お客様の事業をたしかな未来へ導いていきましょう!」と社内の共通言語とすることで、会社とスタッフ間の意識が共通認識化され絆が深まります。また、スタッフ同士でも、事業活動の方向性が共通化するので絆が深まり足並みを揃えることにもつながります。
時々、「企業理念などのCI言語は既に存在しているけれど、ただの“飾り”になってしまっている」というご相談をいただくことがあります。詳しくお話をうかがうと、「創業時に企業としての体裁を整えるために、慌ててつくった。特に想いや考えは込められていないケース」と、「リソースを投入してCI言語をつくったはいいが、結局使わないまま。どう活用すればいいか分からないケース」に別けられるかと思います。
どちらのケースにも共通して言えることは、ブランディングを目的化している点にありそうです。企業がブランディング(もしくはリブランディング)を行う目的は、課題を解決するためにあると考えています。つまり、「売り上げが落ちてきたから何とかしないと……」「スタッフのモチベーションが下がっている……」などのネガティブな課題から、「事業の方向性を大きく変換するからブランドを一新したい!」などのポジティブな課題まで、何かしらの企業課題や経営課題を解決するためにブランディングは存在していると考えています。
「CI言語やロゴなどのVI(ビジュアル・アイデンティティ)を整えることをブランディングの目的」にしてしまうと、ただの“飾り”となってしまいがちです。CI言語やロゴなどをつくることはブランディングの要素の一つです。ケースによっては課題を解決する手法はブランディング以外のところにあるかもしれません。目的をシッカリと定めないままブランディングを行ってしまったり、「ブランディングを行えば何もかもが解決する!」といった誤った認識を持っているのなら、それは修正する必要があるでしょう。
最後までお読みいただきありがとうございます。「企業は言葉でつくられている」というタイトルを読んで「大げさな!」と思われた方も、読み進めるうちに「一理あるかも」と認識が少し変化していただければありがたいです。私としては決して大げさなタイトルだとは思っておらず、企業の土台であり骨格を形成するCI言語次第で、企業の未来は大きく変化すると思っています。
一般社団法人ブランド・プランナー協会では、中小ベンチャー企業様や歯科医院様などのブランディング支援をさせていただいています。興味のある方はお気軽にお問い合わせください!
コラム担当:和田 Facebook
企業のCI構築やCIの言語化をメインに担当させていただいています! ブランディングに関するご相談から言葉に関するご相談まで、お気軽にどうぞ!